2008年と今後の世界6
サブプライムローン問題が各国の実体経済に影響を及ぼすことがもはや避けられなくなったいま、このブログでも何回か取り上げたことのある「イマニュエル・ウォーラーステイン」、およびフランスのシンクタンクネットワークの「Europe2020」の論文がアップデートされたのでこれを紹介する。
イマニュエル・ウォーラーステイン
イマニュエル・ウォーラーステインは世界システム論という一分野を築いた歴史学の大御所である。日本でもその追随者は多く、その古典的な名著「史的システムとしての資本主義」は多くのファンを勝ち得ている。社会科学者は社会変化に関してめったに予測を立てないが、ウォーラーステインは例外中の例外であるといっても良い。このブログの以前の記事でも一度紹介したが、ウォーラーステインはすでにイラク戦争開戦前の2002年に米国の覇権の終焉と国際経済システムの多極化を予言する「THE EAGLE HAS CRASH LANDED(鷲は地上に激突した)」を「 FOREIGN POLICY MAGAZINE」に発表しており、2008年現在の情勢を正確に予見していた。今読んでも実に示唆に富む論文である。
また、このブソグの前回の記事では昨年の自作自演テロとブッシュとチェイニーによる政権内クーデターが阻止された可能性について書いたが、ウォーラーステインは、「The Tiger at Bay: Scary Times Ahead」という記事で、2006年9月1日という非常に早い時期に、すでに副大統領のチェイニーのネオコン一派による政権内クーデターと、これに反抗する軍部のクーデターの可能性を強い調子で警告していた。第一線の社会科学者としてこのようなリアルタイムの警告や予測を公にするのは非常にめずらしい。
ウォーラーステインは月2回くらいのペーズで、ビンガムトン大学で彼が所長を務めている「フェルナン・ブローデル経済・史的システム・文明研究センター」のホームページで評論を発表し、社会情勢の変化を予測している。
サブプライムローン問題の拡大を受けて、ウォーラーステインは2月1日、これからの中長期的な情勢を予測する時評、「2008年:新自由主義に基づくグローバリゼーションの崩壊」を発表した。この論文で、世界を席巻していたグローバリゼーションが終焉し、新しい時代に入ったことが宣言された。今回はその要点をかいつまんで書く。すでに周知の事実となっていることもあるが、結論が興味深いので書くことにした。
2008年:新自由主義に基づくグローバリゼーションの崩壊
・戦後の先進国の経済システムは、ケインズのモデルに従い国家がバランスよく経済を運営するといういわば国家管理型の資本主義が主流であった。
・こうした資本主義の目標は高度福祉社会と高い経済成長率の同時的な実現である。
・だが、次第に福祉事業の支出増大は増税と規制の強化を必然化させ、この結果、企業の利益率を圧迫する最大の要因となった。
・80年代初頭には、イギリスのサッチャー政権が口火を切り、①大幅な規制緩和と政府事業の徹底的な民営化、②短期投資資本の国際的な移動の自由化、③福祉事業の民営化と政府の撤退を推し進めた。
・この結果、企業はどの分野にでも、国境を超えて投資できる環境(グローバリゼーション)が整ったため利益率は大幅に上昇した。
・この改革の動きはレーガン政権の柱にもなり、グローバリゼーションは世界的なトレンドとなった。これをワシントンコンセンサスという。
・だが一方、国内では中産階級の没落から、今までは存在しなかった巨大な所得格差が生まれた。また、各国間の格差も異常に拡大した。
・このため、90年代半ばにもなると、各国で反グローバリズム運動が活発化し、規制のない市場を拡大することを狙ったグローバリズム運動には陰りが見え始めた。
・これに対抗するため、ブッシュ政権はグローバリゼーションを強化する無謀な政策をさらに推し進めた。
・その結果、グローバル経済の矛盾は拡大し、米国の政治的な覇権のみならず、世界経済の中心としての米国経済も決定的に地盤沈下することになった。その結果は以下の三つである。
①基軸通貨としてのドルの決定的な終焉
②各国の、規制のないグローバリゼーションから保護主義への移行
③ケインズ主義に基づく国家管理型資本主義のシステムへの復帰
・すでに歴史は逆の方向にシフトした。いまから10年後にグローバリゼーションという運動を振り返ると、それは「資本主義の歴史の中でたびたび起こった(国民経済)からグローバル経済への循環的なシフト」として書かれることになるだろう。
・各国は、かつての国家管理型資本主義の体制と高度福祉社会への復帰を目標とするようになるだろう
・だが、これは本当に可能なのだろうか?25年続いたグローバリゼーションで国家管理型資本主義の体制と高度福祉社会のシステムはすでに疲弊しており、これに復帰するなどということは本当に可能なのだろうか?
・もしこれが不可能なら、世界経済はこれから暴力的な混乱状態(無秩序)に突入してゆくのではないだろうか?
以上
今回のサブプライムローン、およびこれから発生する可能性の強い金融危機、ならびにこれに伴う米国実体経済の収縮などを通してグローバリゼーションは終焉し、基軸通貨としてのドルの信頼は低下から、世界経済は次第に多極化する方向に向かうことはすでに疑いない認識となりつつある。
だがこれが、複数の経済圏が構成する安定した多極化システムへの移行なのか、それとも構造やシステムが存在しないカオスのような無極化への動きなのかは判断が分かれるところである。
少なくともウォーラーステインは、無極化(カオス化)への動きととらえているようである。当然、ウォーラーステインは予言者ではない。世界システム論という学派の創始者であり、第一級の研究者だ。だが、イラク戦争の泥沼化、米国の覇権崩壊、米軍内部のブッシュ政権への反抗、グローバリゼーションの終焉など、1990年代からウォーラーステインが展開してきた時事評論の的中度からみて、今回も真剣に受け止める必要があるだろう。
LEAP/E2020
次に紹介するのはやはり過去にこのブログでも何度か取り上げたことのある「Europe2020」というフランスに本部があるシンクタンクのネットワークの最新レポートである。「Europe2020」はすでに2005年頃からグローバルシステムの崩壊を予言しており、それは次の4つの段階をたどるとされる。以前にブログに書いたが再度紹介する。
第一段階:始動期。注意深い観察者や当事者本人にしか感じられないような仕方でこれまで関連がなかった様々な要素が相互に関連して危機的な状況を徐々に形成し始める。
第二段階:加速期。多くの観察者が危機が起こりつつあることを認識するようになり、システムの様々な構成要素が影響を受ける。
第三段階:衝撃期。蓄積された変化が臨界点に達し、システム全体が実際に崩壊し始める。
第四段階:新システムの誕生期。システムの崩壊のあと未来を担う新しいシステムが徐々に姿を現す。
現在われわれは第三段階にいるとされる。
グローバルシステムの危機 / 2008年9月 - 米国実体経済の崩壊
・2008年第三期の終わりは、グローバル経済のシステム危機の決定的な転換点となるはずだ。
・危機が米国の実体経済を直撃し、民間、公共両セクターの組織や機関は破産して、ドルの大幅な下落を伴いながら住宅、金融バブルは完全にはじける。
・米国政府は、予算削減を理由に、3月1日から政府の経済統計の公表を差し止める決定をしたが、これは経済崩壊が近いことを隠蔽するために行ったと見たほうが良い(※)
・すでにFRB(連銀)は、世界全体に流通しているドルの総量を表す統計数値、M3の発表をやめてしまったが、これと同じ隠蔽処置である。
・われわれは、過去に前例のない危機に突入しつつある。これから発生する危機は、1929年の大恐慌の再演でもないし、また1970年代の石油危機、そして1987年の米国株式崩壊(ブラックマンデー)の再発のような事態ではまったくない。
・これは、これまで何世代にもわたって世界を支え続けていた国際システムが、根底から崩壊してしまうという危機である。
・われわれ、LEAP/E2020は、2年前にも世界システム崩壊の危機を警告するレポートを発表したが、このときに指摘した警告が現実化しつつある。だが、多くの主流マスメディアは、これが短期的な危機であり、すぐに世界経済は元通りになると主張している。これは人を欺く言説であると同時に、倫理的に無責任である。
・われわれは心ある市民に危機が目の前に迫っていることを警告し、これにすぐに対処する準備をするように警告しなかればならない。これがわれわれに課せられた責任である。
・一般市民がどのように危機に対処すべきかレポートで発表する。
・この危機はまさに米国に端を発した危機である。そのため、米国の危機がもっとも深刻なものとなる。ヨーロッパとアジアにも甚大な影響を与えるが、米国ほどではない。
・中国やインドなどの新興国の台頭により、各国経済の米国に対する依存度は弱くなっているというデカップリング理論があるが、これは正確ではない。米国経済の影響は確かに低下はしているが、各国経済が米国から完全に自立しているわけではない。影響は免れない。
・むしろ、これから始まる危機によって各国は米国から完全に自立し、デカップリングするようになるはずだ。いま米国から距離を置きこの国と手を切らないと、米国の下降スパイラルに巻き込まれ、一緒に沈下することになる。
・2007年10月のレポートで、われわれは2008年の株価が20-60%下落するだろうと予想したが、下落幅はこのときの予想値を上回ると考えられる。
・すでに現在までの時点で株価は平均で10%下落しているが、2008年の夏から起こる米国実体経済の崩壊により株価は押し下げられるため、2007年と比べると株価は50%下落するだろう。
・米国実体経済の崩壊は2008年9月以降に発生すると考える。
・この崩壊は、米国の金融市場のみならず、米国経済、さらには社会システム全体にとてつもない影響を与えるだろう。
※「米国商務省経済統計局」(The U.S. Department of Commerce Economics and Statistics Administration)は予算削減の必要から3月1日以降経済統計の発表を差し控えると決定した。だが、その後多くの反対にあいこの決定は撤回された。統計の公表は続けられる見込みである。
以上
「LEAP/E2020」は今年の9月以降の米国経済の全面的な崩壊を予想している。今一度コルマンの言説を確認しておきたい。
「まずDay5で基軸通貨としてのドルを崩壊させる大きな事件が発生するが、それはNight5にさしかかる時期ではアメリカと中国との協力によって崩壊は遅延させられ、一時的には何事もなかったようにシステムは再構築されるだろう。だがこれは長くは続かない。Night5の終わりから Day6の始めにかけて早晩崩壊し、新しい意識と秩序の出現に席を譲る」
NIGHT5 2007年11月18日~2008年11月12日
DAY6 2008年11月12日~2009年11月7日
今年の9月以降というとやはりマヤカレンダーのNIGHT5の終わりからDAY6にかけての時期に米国および世界経済システムの決定的な危機が発生するのだろうか?そして、ウォーラーステインの観測が正しいのなら、安定性のある多極化した秩序に移行するのではなく、それは無極化というカオス状態への移行なのだろうか?
コソボ自治州の独立
ところでかねてから独立を主張していたコソボ自治州が2月17日、セルビアからの独立を一方的に宣言した。セルビアの首都ベオグラードでは、独立をいち早く承認した米国や欧州各国の大使館が焼き討ちなどの合い、この地域が今後の火種になることが懸念されている。
以前にアロイス・イルマイルの予言を紹介した。コソボ自治州の独立はこの予言となにか関係があるのだろうか?それは新たな戦争へといたる道を暗示しているのだろうか?再度紹介する。
アロイス・イルマイル(1894-1959)は、南ドイツに実在した予言者であること以外はよく分らない。第三次大戦にまつわる予言は、死の数年前、コンラッド・アルドマイヤーとのインタビューで記録されたとされている。
- 何が戦争のきっかけとなるのですか?
すべての人が平和を求める。だが戦争は起こってしまうので。新しい中東戦争が突然に勃発する。地中海で巨大な船隊が対峙し状況は緊張する。だが、危機はバルカンで発生する。大物の政治家が倒れるのが見える。血のりのついたナイフが横たわっている。それから衝撃的な出来事が相次ぐ。
第三の実力者を二人の男が殺す。この男たちは他の人物に雇われた。その後、三つ目の暗殺が起こる。それから戦争が勃発する。
中略
密集した部隊(ロシア軍)は東からベルグラードに侵攻し、その後イタリアまで前進する。その直後、なんの警告もなしに三つの師団(?)がものすごいスピードでドナウの北から西ドイツにラインに向かって進む。これは何の警告もなく起こるので、住民はパニックを起こし西へ逃れようとする。
いずれにせよ目が離せない。
ヤスの英語
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